「原価率30%」は理想論?飲食店が現場で生き残るための“リアルな原価管理”とメニュー戦略

「原価率30%」は理想論?飲食店が現場で生き残るための“リアルな原価管理”とメニュー戦略

こんにちは。REDISHで開業サポートを担当している花上です。

これまで、神奈川・京都の5つ星ホテルにて5年間、婚礼料理やフレンチを中心に経験を積んできました。その後は街づくり会社の飲食部門にて3年弱、フードディレクターとして店舗や企業のメニュー開発、メニュー撮影などに携わってきました。

現場と企画、両方の視点から飲食に関わってきた立場として、今回は「原価管理」というテーマについてお話ししたいと思います。

飲食業界において「原価率30%」という言葉は、もはや常識のように語られています。開業セミナーや経営書でも繰り返し登場し、ひとつの「正解」として認識されている方も多いのではないでしょうか。しかし、実際の現場に立ってみると、この30%という数字がいかに理想的で、時に非現実的なものかを痛感する場面が多くあります。

実際、日本政策金融公庫の「2023年度 小企業の経営指標調査」によると、一般飲食店の原価率は36.9%というデータもあり、30%という水準は必ずしも実態に即した数字ではありません。

特にフレンチのコース料理のように「クオリティを下げられない」「食材の選定に妥協できない」業態では、この原価率を守ること自体が非常に難しい課題です。料理人としてのプライドや、お客様の期待値を考えれば、単純に食材の質を落とすという選択肢は取りづらく、結果として原価は自然と膨らんでいきます。

原価30%が崩れる本当の理由

原価率が上がってしまう理由は、単に「高い食材を使っているから」だけではありません。現場では、もっと複雑な要因が絡み合っています。

1. 人手不足と既製品利用のジレンマ

小規模店舗では特に顕著ですが、仕込みやオペレーションに十分な人員を割けないケースが多く見られます。その結果、本来であれば手作りできるソースやデザート、下処理工程を既製品に頼らざるを得なくなり、仕入れコストが上昇します。既製品はロスが出にくい反面、単価が高く設定されているため、結果として原価率を押し上げる要因になります。

2. 「見えないコスト」とのバランス

本来、手作りすればフード原価は抑えられるケースでも、その分の人件費や時間コストが増え、結果として全体の利益を圧迫することも少なくありません。つまり、フード原価だけを切り取って最適化しようとすると、かえって経営全体では非効率になることもあるのです。原価率が多少上がっても、そのぶん人件費が下がり、原価と人件費を合わせた「FL比率」を60%程度に収められていれば、経営全体としては問題ありません(FL比率について詳しくは、こちらの記事もあわせてご覧ください 【税理士監修】飲食店の人件費率の目安とは?FL比率から考える利益改善のポイント)。

3. 看板メニューへのこだわりと売れ方の偏り

「看板メニュー」にこだわりすぎるあまり、その一品だけで利益を出そうとするケースも多く見られます。しかし、こだわり抜いた料理ほど原価が高くなるのは当然であり、その一皿で利益を確保するのは現実的ではありません。無理に価格を上げれば、お客様にとっての「価値との乖離」が生まれ、注文率の低下につながるリスクもあります。

さらに、理想的な原価設計はすべてのメニューがバランスよく注文される前提で組まれがちですが、実際には人気商品に注文が集中します。もしその商品が高原価であれば、想定していた原価率は簡単に崩れてしまいます。

4. ロス管理の甘さ

特にコース料理や多品目展開の店舗では、仕込み量のブレや急なキャンセル、天候による来客数の変動などによって、食材ロスが発生しやすくなります。このロスは原価の中に埋もれて、いくら発生しているのかが見えにくいものの、実質的には原価率を押し上げる大きな要因です。レシピ上の「理論原価率」と、棚卸から出した「実際原価率」の差を毎月確認すると、ロスの大きさを把握できます。

このように、原価率が崩れる背景には「人」「オペレーション」「メニュー設計」「ロス管理」「売れ方の偏り」といった複数の要素が複雑に絡み合っています。単純に「食材の問題」として片付けられるものではなく、店舗全体の設計そのものが問われていると言えるでしょう。

単品で考えない!「ポートフォリオ戦略」という発想

ここで重要になるのが、単品で原価を合わせようとしないという考え方です。多くの方が陥りがちなのが、各メニューごとに原価率30%を目指そうとするアプローチですが、これは現場ではあまり現実的ではありません。

例えば、原価率が50%を超えるような看板料理があったとしても、それ自体は問題ではありません。むしろ、その料理が集客の核になっているのであれば、積極的に打ち出すべきです。重要なのは、その高原価メニューを含めた全体で利益が出ているかどうかです。

この考え方は、いわばポートフォリオ戦略です。原価率は高くても1皿の粗利額が大きい看板商品と、原価率が低く利益を積み上げやすい商品を組み合わせ、全体でバランスを取るという発想です。メニューを原価率だけでなく「人気度(出数)」と「粗利額」の2軸で評価し、構成を最適化する考え方は「メニューエンジニアリング」と呼ばれ、飲食店経営で広く活用されています。

ポートフォリオ戦略を成功させるポイント

  • カテゴリーごとの役割分担:「原価は高いが注文されやすい看板商品」と、「原価が低く利益を取りやすいサイドメニューやドリンク」をどう設計するかが鍵になります。例えば、前菜やパン、ドリンクといったカテゴリーは比較的原価コントロールがしやすく、全体の利益を下支えする役割を持たせることができます(デザートも、手作りできる場合は同様に原価を抑えやすいカテゴリーです)。
  • コース設計での強弱:一皿ごとに原価を均等に整えるのではなく、「ここはしっかり原価をかけて印象を残す」「ここは構成や見せ方で満足度を担保しつつ原価を抑える」といった強弱をつけることで、全体としての満足度と収益性を両立できます。
  • 「売れる導線」の設計:どれだけ理想的なポートフォリオを組んでも、実際の注文が想定通りに動かなければ意味がありません。メニュー表の配置やおすすめの打ち出し方、スタッフの声かけによって、利益の取りやすい商品へ自然に誘導していく設計が不可欠です。

このように、原価管理は単なる計算ではなく、「何を売るか」だけでなく「どう売るか」まで含めた設計の問題です。単品最適ではなく全体最適で捉えることで、はじめて現場で機能する原価コントロールが実現します。

パーティー・ビュッフェが原価管理の鍵になる理由

では、具体的にどのようにバランスを取るのか。そのひとつの答えが「パーティー料理」や「ビュッフェメニュー」の活用です。これらのスタイルは、原価コントロールの面で活用できる特徴を持つ一方、形態によって効き方が異なります。

  • 仕入れコストの圧縮:同一メニューを大量に仕込むことができるため、スケールメリットが働き単価を下げやすくなります。
  • 人件費と提供手間の削減:一皿ずつ提供せずまとめて出すため、盛り付けやサービスにかかる人件費も圧縮できます。
  • フードロスの発生構造には注意が必要:一方でビュッフェ形式は、欠品を避けるための余裕を持った仕込みや、お客様の取りすぎによる食べ残しから、一般的にはフードロスが増えやすい業態でもあります。ロスを抑えるには、品目数を絞る、提供量をこまめに調整する、閉店前は品目を減らすといった運用面の工夫が前提になります。
  • メニュー設計の自由度:コースのように一皿ごとの完成度を厳密に求められないため、原価の高いメイン食材に対して付け合わせやベース料理でバランスを取りやすくなります。
  • 計画的な発注が可能なのは主に「事前予約制の宴会・パーティー」:あらかじめ人数や予算が確定している貸切宴会やパーティープランでは、無駄な在庫やロスを最小限に抑えられます。一方、通常営業の食べ放題ビュッフェは来店客数の予測が難しく、同じようにはいきません。
  • トータルでの粗利設計:「飲み放題付き」や「時間制」といった付加価値を組み込みやすく、ドリンクを含めたトータルで利益を出す構造をつくれます。

パーティーやビュッフェは、仕入れ・人件費・粗利設計の面では原価コントロールの武器になります。ただし、ロス管理や発注精度は「事前に人数が確定しているかどうか」で効き方が変わるため、自店がどちらの形態に近いかを見極めたうえで活用することが重要です。

現場の知恵は「全体最適」にある

現場で成果を出している店舗に共通しているのは、「部分最適ではなく全体最適」で考えている点です。単品の原価や利益だけを追いかけるのではなく、店舗全体で収益を最大化する設計をしています。

たとえば、以下はひとつの組み合わせ例です(ランチを「ディナーのお試し」と位置づけ、あえて原価率を高めに設計する店舗もあります)。

  • ランチ:原価を抑えて回転率を重視
  • ディナー:単価を上げて利益を確保
  • ドリンク・サイドメニュー:原価を抑えて粗利を稼ぐ
  • 看板メニュー:原価が高くても集客力と顧客満足を生む

重要なのは、「どこで利益を取るか」を明確にすることです。すべてのメニューで均等に利益を出そうとすると、結果としてどれも中途半端になり、魅力のない店舗になってしまうリスクがあります。

利益を取る商品とそうでない商品を明確に分けることで、メニューにメリハリが生まれ、お客様にとっても満足度の高い体験につながります。さらに現場では、この「全体最適」の考え方をスタッフ全員が理解しておくことで、オペレーションが円滑になり、提供ムラやロスを減らすことができます。

理想と現実のバランスをどう取るか

原価率30%という指標自体が間違っているわけではありません。あくまで「目安」としては非常に有効です。しかし、それを絶対的なルールとして現場に当てはめてしまうと、かえって経営を苦しめる要因になりかねません。

これから開業を考えている方や経営者の方にとって重要なのは、数字を守ることではなく利益を残すことです。

単純に原価率30%にこだわって高品質な料理を削ってしまったり、人件費を圧迫してサービスが回らなくなるようでは、長期的には店舗の信用も損なわれます。原価率だけでなく、人件費、家賃、光熱費、回転率、季節による来客数の変動など、すべての要素を含めた総合的な視点が欠かせません。

自分の店舗の強み(料理のクオリティ、空間の居心地、接客の体験価値など)を明確にし、どこにコストをかけるべきか、どこを効率化するかの軸を持って柔軟に設計していきましょう。

まとめ

「原価30%」という言葉に縛られすぎる必要はありません。現場では、それ以上に柔軟で戦略的な思考が求められます。

  1. 単品での原価調整にこだわらず、メニュー全体で利益を設計する(ポートフォリオ戦略)
  2. パーティーやビュッフェといった手法を活用し、原価と利益をコントロールする
  3. 「どこで利益を取るか」を明確にし、店舗全体の最適化を図る

これこそが、今の飲食業界で生き残るための「リアルな原価管理」なのです。

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