自宅で飲食店を開業するための設備要件|住居との区画が最初の関門

自宅で飲食店を開業するための設備要件

自宅で飲食店を開業するとき、最初の関門は設備の数ではありません。「住居部分と営業区画を分けられるか」です。ここが満たせないと、他の設備をいくら揃えても営業許可は下りません。

そして意外に見落とされるのが、そもそもその場所で店舗を開けるかという用途地域と規約の確認です。設備を検討する前に、この 2 つを先に潰してください。

家庭のキッチンをそのまま使うことはできない

自宅開業の相談で最も多い誤解がこれです。普段家族が使っている台所を、そのまま飲食店の厨房として使うことは原則できません。

理由は、飲食店営業許可の施設基準が「営業用の区画」を前提にしているためです。求められるのは主に次の点です。

  • 住居部分と営業区画が扉などで仕切られていること(人や物が自由に行き来しない構造)
  • 営業区画に、住居用とは別の設備が備わっていること
  • 客の動線が住居部分を通らないこと

つまり自宅開業とは「家の台所を使う」ことではなく、「自宅の一部に、独立した小さな店舗を作る」ことです。ここを理解しないまま間取りを検討すると、後から大きな工事が必要になります。

なお、具体的な基準は自治体の条例によって異なります。シンクの数や区画の仕様は地域差が大きいため、必ず管轄の保健所に確認してください。

その場所で店を開けるか(用途地域と規約)

自宅の所在地の用途地域によっては、飲食店の営業自体に制限がかかります。

とくに第一種低層住居専用地域では、住宅と店舗を兼ねる「兼用住宅」として、店舗部分の床面積が 50 平方メートル以下、かつ建物の延べ面積の 2 分の 1 未満という条件を満たす必要があります(建築基準法別表第二)。

  • 賃貸住宅の場合は、賃貸借契約で用途が居住専用に制限されていることが多く、その場合は営業できません
  • 分譲マンションでは管理規約で店舗利用が禁止されていることが多く、可能な場合も管理組合の承認が必要になります

設備を買う前に、まず「この場所で開業できるか」を確認してください。 ここで不可となれば、設備の検討自体が無駄になります。

保健所が見る主な設備

自治体差はありますが、共通して確認される項目は次のとおりです。

区分求められる内容
区画住居部分と営業区画が仕切られている
シンク洗浄用のシンク(2 槽以上を求める自治体が多い)
手洗い設備調理従事者専用の手洗い。消毒液を備える
給湯温水が使えること
冷蔵設備温度計を備え、庫内温度を確認できること
床・壁・天井清掃しやすく、汚れを落としやすい材質
換気調理で発生する蒸気・煙を排出できる設備
保管扉付きの食器棚など、埃や害虫から守れる収納
廃棄物ふた付きの容器
給水水道水または適合する水質の水

最も指摘を受けやすいのが手洗い設備です。 洗浄用のシンクとは別に、調理する人が手を洗うための設備が必要になります。家庭のキッチンには通常この区別がないため、追加工事になるケースが多くあります。

図面段階で保健所に相談する

自宅開業で工事の手戻りを防ぐ最も確実な方法は、図面ができた段階で保健所へ相談することです。

相談で確認すべき項目は次の 4 つです。

  1. 住居部分との区画が基準を満たすか
  2. シンクの数と大きさ
  3. 手洗い設備の位置と仕様
  4. 客が使うトイレの扱い(設ける場合の位置と手洗い)

工事が終わってから検査で指摘を受けると、内装をやり直すことになります。 相談自体に費用はかからないため、必ず着工前に済ませてください。

テイクアウト中心なら許可の種類を確認する

自宅開業では、店内で食べてもらうのではなく、テイクアウトや通販を中心に考える方も多くいます。この場合、何を作るかによって必要な許可が変わります

  • 調理した食事を提供・販売する: 飲食店営業許可
  • 焼き菓子・パンなどを製造して販売する: 菓子製造業許可
  • 食品を仕入れて包装のまま販売する: 許可が不要な場合がある

「作るもの」ごとに許可が分かれています。 飲食店営業許可を取ったからといって、菓子の製造販売までできるとは限りません。扱う品目が複数にまたがる場合は、必要な許可をすべて洗い出してから設備を設計してください。

設備が整った後の手続きと期限

設備の目処が立ったら、期限のある手続きを逆算して配置します。自宅開業でも、店舗を借りる場合と必要な届出は変わりません。

手続き提出先期限
飲食店営業許可の申請保健所施設完成予定日の 10 日前ごろまで
食品衛生責任者の設置店舗ごとに 1 名以上。講習受講で取得可能
防火対象物使用開始届消防署使用開始の 7 日前まで
防火管理者の選任届消防署収容人員 30 人以上の場合
個人事業の開業・廃業等届出書税務署開業の日から 1 か月以内
所得税の青色申告承認申請書税務署開業の日から 2 か月以内

自宅開業は席数が少ないことが多く、収容人員 30 人未満であれば防火管理者の選任は不要になります。一方、飲食店営業許可と食品衛生責任者は規模にかかわらず必要です。

青色申告承認申請書は、期限を過ぎるとその年は青色申告ができません。開業届と同時に提出しておくのが確実です。 自宅開業では家賃・水道光熱費の按分が発生するため、記帳の負担を考えても青色申告の準備をしておく価値があります。

設備投資を抑える順番

自宅開業の利点は初期費用の低さですが、節約してよい部分とそうでない部分があります

優先度対象理由
落とせない区画・手洗い・シンク・換気許可の可否に直結する
落とせない冷蔵設備と温度管理食中毒リスクに直結する
後回しでよい食器洗浄機効率化のための設備。客数が増えてからで間に合う
後回しでよい予備の調理機器提供メニューが固まってから買う
後回しでよい内装の意匠売上が立ってから段階的に

開業時点で揃えるのは「許可に必要なもの」と「安全に必要なもの」に絞るのが基本です。効率化の設備は、実際の客数と作業のボトルネックが分かってから入れるほうが無駄が出ません。

自宅開業で特に注意する 3 点

設備要件を満たしたうえで、自宅開業だからこそ問題になりやすい論点があります。

1. 家族との動線が混ざる

営業区画を仕切っても、実際の生活では扉が開けっ放しになりがちです。家族が営業時間中に区画へ入る、食材と家庭用の食品が同じ冷蔵庫に入るといった運用は、衛生管理上も許可の趣旨からも避けてください。 検査時だけ整えても、日常の運用が崩れていれば意味がありません。

2. 近隣への影響

住宅地での営業は、においと音が近隣との摩擦になります。とくに換気の排気口の向きは、設置後に変更すると費用がかかります。排気の出口が隣家の窓や洗濯物に向いていないかを、設計段階で確認してください。

客の出入り、話し声、駐車も同様です。開業前に近隣へ挨拶しておくと、後の関係が大きく変わります。

3. 席数の上限が収益の上限になる

自宅開業は家賃負担が軽い一方、席数を増やせないため売上に天井があります。1 日の最大客数が 20 人なら、客単価 3,000 円で 1 日 60,000 円が上限です。ここから原価と人件費を引いた額が、月にどれだけ残るかを開業前に計算してください。

天井が低いと分かった場合の選択肢は、客単価を上げる、テイクアウトや通販で席数の制約を外す、回転を上げる、のいずれかです。開業してから気づくと、打ち手が限られます。

開業後の数字の管理

自宅開業では、水道光熱費や家賃を住居分と事業分に按分する必要が出てきます。ここを開業時に決めておかないと、確定申告の時期に一年分をまとめて悩むことになります。

按分の基準としては、面積比や使用時間比が使われます。根拠を説明できる基準を選び、毎月同じ方法で記録してください。 期の途中で基準を変えると、後から整合を取るのが難しくなります。

REDISH では飲食店向けの記帳代行と月次の数値可視化を提供しています(税務申告は飲食専門の提携税理士法人が担当します)。按分の考え方は開業時に決めておくと、後の修正が減ります。

自宅開業の全体像は 自宅で飲食店の開業をするには?〜導入編〜、手続きの流れは 飲食店開業までのスケジュール を参照してください。

よくある質問

家の台所をそのまま使えますか?

原則できません。住居部分と仕切られた営業区画が必要で、その区画に営業用の設備を備える必要があります。

シンクは何槽必要ですか?

2 槽以上を求める自治体が多いですが、基準は条例によって異なります。管轄の保健所に確認してください。

手洗い設備は洗い場と兼用できますか?

多くの自治体で、調理従事者専用の手洗い設備を別に求めています。兼用は認められないことが一般的です。

マンションでも開業できますか?

賃貸借契約や管理規約で用途が居住専用に制限されている場合が多く、その場合は営業できません。分譲では管理組合の承認が必要になることがあります。

用途地域は誰に確認すればよいですか?

市区町村の都市計画担当窓口です。第一種低層住居専用地域では、兼用住宅として店舗部分 50 平方メートル以下かつ延べ面積の 2 分の 1 未満という条件があります。

保健所への相談はいつすればよいですか?

図面ができた設計段階です。工事完了後に指摘を受けると、内装のやり直しになります。

焼き菓子を作って売る場合も飲食店営業許可でよいですか?

菓子製造業許可が別に必要です。作るものごとに許可が分かれているため、扱う品目をすべて洗い出して確認してください。