飲食店開業の手続きと届出|提出先・期限・順番のすべて

飲食店の開業手続きでつまずくのは、必要な書類が分からないからではありません。どの順番で、いつまでに出すのかが分からないからです。
手続きには互いに依存関係があります。工事が終わらないと保健所の検査を受けられず、検査に通らないと営業許可が下りず、許可がないと開店できません。1 つ遅れると、その後ろが全部ずれます。
提出先ごとに、期限と順番を整理します。
全体像:4 つの窓口
| 窓口 | 何のために | いつ |
|---|---|---|
| 保健所 | 飲食店営業許可 | 施設完成予定日の 10 日前ごろまでに申請 |
| 消防署 | 防火対象物使用開始届/防火管理者の選任 | 使用開始の 7 日前まで |
| 警察署 | 深夜酒類提供飲食店営業開始届出(該当する場合) | 営業開始の 10 日前まで |
| 税務署 | 開業届・青色申告承認申請ほか | 開業後 1〜2 か月以内 |
開店前に済ませる必要があるのは上の 3 つです。 税務署への届出は開業後で構いませんが、青色申告承認申請書だけは期限を過ぎるとその年の適用が受けられません。
1. 保健所:飲食店営業許可
食品衛生法に基づく許可で、これがないと営業できません。
手続きの流れ
- 事前相談(図面ができた段階) — シンクの数、手洗い設備の位置、区画などを確認する
- 申請(施設完成予定日の 10 日前ごろまで) — 申請書、施設の図面、食品衛生責任者の資格を証する書類などを提出
- 施設検査 — 保健所の担当者が現地で基準を満たしているか確認する
- 営業許可書の交付 — 検査に合格すると交付される
最も重要なのは 1 の事前相談です。 図面段階で相談しておけば、工事のやり直しを避けられます。工事完了後の検査で指摘を受けると、内装を作り直したうえで再検査となり、開店が数週間ずれます。相談自体に費用はかかりません。
食品衛生責任者
店舗ごとに 1 名以上の設置が必要です。調理師や栄養士などの資格を持っていれば充当でき、持っていない場合も 1 日の講習を受ければ取得できます。費用は 1 万円程度が目安です。
講習は定員があり、希望日にすぐ受けられるとは限りません。 開業を決めた早い段階で申し込んでおいてください。
喫茶店営業許可は廃止された
古い情報に注意してください。かつては「喫茶店営業」と「飲食店営業」で許可が分かれていましたが、2021 年 6 月 1 日施行の改正食品衛生法により、喫茶店営業の許可は廃止され飲食店営業に一本化されました。
飲み物だけを提供する店でも、取得するのは飲食店営業許可です。
作るものによって許可が変わる
飲食店営業許可があれば何でも作れるわけではありません。
- 調理した食事を提供・販売する: 飲食店営業許可
- 焼き菓子・パンを製造して販売する: 菓子製造業許可
- 食肉や魚介類を加工して販売する: それぞれ別の許可
扱う品目が複数にまたがる場合は、必要な許可をすべて洗い出してから設備を設計してください。 後から追加すると、区画や設備の追加工事が発生します。
2. 消防署:防火関係の届出
| 届出 | 必要な場合 | 期限 |
|---|---|---|
| 防火対象物使用開始届 | すべての店舗 | 使用開始の 7 日前まで |
| 防火管理者の選任届 | 収容人員 30 人以上 | 使用開始まで |
| 火を使用する設備等の設置届 | 厨房設備の設置時 | 設置前 |
防火管理者には甲種と乙種があり、飲食店では延べ面積 300 平方メートル以上が甲種、300 平方メートル未満が乙種です。講習の費用は 7,000 円程度が目安になります。
こちらも講習に定員があるため、早めの申込みを勧めます。
3. 警察署:深夜酒類提供飲食店営業開始届出
午前 0 時から午前 6 時までの時間帯に酒類を提供する場合、営業開始の 10 日前までに、店舗を管轄する警察署を経由して公安委員会へ届け出ます。
注意点は 3 つです。
- これは許可ではなく届出です。「深夜酒類提供飲食店営業許可」という表記を見かけますが誤りです
- 場所の制約があります。用途地域や条例により、住居系の地域では深夜営業ができない場合があります。物件を決める前に確認してください
- 接待を伴う場合は、この届出ではなく風俗営業の許可が必要になります。特定の客の隣に座って継続的に会話の相手をするといった行為が接待にあたります
4. 税務署:開業後の届出
| 書類 | 必要な場合 | 期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 個人で開業する場合 | 開業の日から 1 か月以内 |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 青色申告を選ぶ場合 | 開業の日から 2 か月以内 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 従業員を雇う場合 | 開設から 1 か月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 従業員が少ない場合 | 適用を受けたい月の前月末まで |
青色申告承認申請書は、開業届と同時に出してください。 期限を過ぎるとその年は青色申告ができず、最大 65 万円の特別控除も適用されません。1 枚の書類を出し忘れただけで、初年度の税負担が変わります。
法人で開業する場合は、法人設立届出書など別の書類が必要です。
その他に必要になる手続き
上の 4 窓口以外にも、業態や体制によって必要になるものがあります。
| 手続き | 必要な場合 | 提出先 |
|---|---|---|
| 労働保険(労災保険)の加入 | 従業員を 1 人でも雇う場合 | 労働基準監督署 |
| 雇用保険の加入 | 一定の条件を満たす従業員を雇う場合 | ハローワーク |
| 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入 | 法人、または一定規模の個人事業 | 年金事務所 |
| 適格請求書発行事業者の登録 | インボイスを発行する場合 | 税務署 |
| 一般酒類小売業免許 | 未開栓の酒類を販売する場合 | 税務署 |
| 菓子製造業許可 | 焼き菓子・パンを製造販売する場合 | 保健所 |
見落とされやすいのが労働保険です。 従業員を 1 人でも雇えば加入義務が生じます。アルバイトも対象になるため、「正社員がいないから不要」という理解は誤りです。
酒類小売業免許も注意が必要です。店内で開栓して提供するだけなら不要ですが、未開栓のボトルを持ち帰り用に販売するには免許が必要です。免許なしでの販売は酒税法違反になります。
順番を間違えるとどうなるか
実務で起きやすい失敗を、原因と結果で整理します。
| 失敗 | 何が起きるか |
|---|---|
| 保健所への事前相談を飛ばした | 検査で指摘 → 内装のやり直し → 開店が数週間ずれる |
| 物件契約後に深夜営業不可と判明 | 保証金と設計費が無駄になる、または営業時間の想定が崩れる |
| 講習の申込みが遅れた | 食品衛生責任者・防火管理者が開店に間に合わない |
| 開店日を先に告知した | 遅れたときに信用と広告費を同時に失う |
| 青色申告承認申請書を出し忘れた | 初年度の税負担が増える |
このうち上の 2 つは、物件を決める前の確認だけで防げます。 内見の段階で「保健所の基準を満たせそうか」「この住所で深夜営業が可能か」を確認してください。
誰に頼めるか
手続きは自分でも進められますが、専門家に任せられる範囲もあります。
| 手続き | 依頼できる相手 |
|---|---|
| 飲食店営業許可、深夜酒類提供の届出、風俗営業許可 | 行政書士 |
| 開業届、青色申告承認申請、記帳 | 税理士・記帳代行 |
| 労働保険・雇用保険・社会保険 | 社会保険労務士 |
| 法人設立の登記 | 司法書士 |
自分でやるか任せるかの判断基準は、費用ではなく「やり直しのコスト」で考えてください。 開業届のような定型の書類は自分で出しても問題ありません。一方、深夜酒類提供や風俗営業の届出は、店舗の構造要件が絡むため、間違えると工事のやり直しになります。
とくに初めての開業で、深夜営業や接待を伴う業態を考えている場合は、設計段階から行政書士に入ってもらうほうが結果的に安く済むことがあります。
開業後に効いてくる準備
手続きが終われば開業できますが、そこからは数字の管理が始まります。開業前に決めておくとよいのは次の 2 つです。
- 記帳の方法(自分でやるか、外部に任せるか)
- 月次で見る数字(原価率・人件費率・1 日あたりの損益分岐点客数)
開業直後は営業だけで手一杯になり、記帳は後回しになりがちです。数か月分をまとめて処理すると当時の状況を思い出せず、精度が落ちます。REDISH では飲食店向けの記帳代行と月次の数値可視化を提供しています(税務申告は飲食専門の提携税理士法人が担当します)。
開業までの全体スケジュールは 飲食店開業までのスケジュール、自宅での開業は 自宅で飲食店を開業するには を参照してください。
よくある質問
開業手続きは何から始めればよいですか?
保健所への事前相談です。図面ができた段階で相談すれば、工事のやり直しを防げます。
飲食店営業許可の申請はいつ出しますか?
施設完成予定日の 10 日前ごろまでです。申請後に施設検査があり、合格して初めて許可書が交付されます。
食品衛生責任者の資格はどう取りますか?
1 日の講習を受講します。費用は 1 万円程度が目安です。調理師や栄養士の資格があれば充当できます。
防火管理者は必ず必要ですか?
収容人員 30 人以上の店舗で必要です。それ未満であれば選任は不要になります。
深夜まで営業しない場合も警察署への届出は必要ですか?
午前 0 時以降に酒類を提供しないのであれば不要です。営業時間を延ばす可能性があるなら、先に届出をしておくほうが安全です。
開業届はいつまでに出しますか?
開業の日から 1 か月以内です。青色申告承認申請書は 2 か月以内のため、同時に提出するのが確実です。
喫茶店だけをやる場合も飲食店営業許可が必要ですか?
必要です。2021 年 6 月 1 日施行の改正食品衛生法で、喫茶店営業の許可は飲食店営業に一本化されました。









