韓国料理屋の開業ガイド|1日何人で黒字か・許認可・生食規制

韓国料理屋の開業ガイド

韓国料理屋の開業手続きは、大部分が一般の飲食店と同じです。違いが出るのは 3 点だけで、「焼肉業態にするかどうか」「生食メニューを出すかどうか」「韓国食材をどこから仕入れるか」。この 3 点の判断が、必要な設備・出せるメニュー・原価率のすべてを決めます。

逆に言えば、この 3 点を先に決めずに物件を契約すると、後から排煙工事が必要になったり、出せると思っていたメニューを諦めたりすることになります。着手順に整理します。

韓国料理屋開業の数字(先に結論)

同じ「韓国料理屋」でも、客席で焼くかどうかで、1 日に必要な客数は約 3 倍ちがいます。 月に必要な売上はほぼ同じでも、客単価が違うために必要客数がまったく別の数字になるからです。ここを取り違えると、席数と立地の判断を間違えます。

開業資金は、日本政策金融公庫の「2025 年度新規開業実態調査」で平均 975 万円・中央値 600 万円(全業種)です(詳しい解説はこちら)。ただし韓国料理で客席で焼く業態を選ぶ場合は、排煙ダクトと無煙ロースターがこの平均に上乗せされる構造になります。

2 つの業態を、実際の開業計画の数字で比べる

以下は、REDISH が支援して公開している開業計画 2 件の実数です(架空の相場ではありません)。

客席で焼く型厨房調理・テイクアウト型
元になった計画焼肉業態・融資 1,500 万円キンパ専門店・融資 1,300 万円
客単価3,500 円1,200 円
席数20 席4 席(テイクアウト主体)
面積約 10〜12 坪15 坪
原価率35%(粗利率 65%)30%(粗利率 70%)
月額家賃31 万円40 万円
固定費合計(月)110 万円115 万円
損益分岐点の月商約 169 万円約 164 万円
1 日あたり必要客数約 19 人約 53 人
必要回転数約 0.9 回転 / 日(席で測らない業態)

損益分岐点の月商はほぼ同じ(169 万円と 164 万円)なのに、必要客数は 19 人と 53 人で 2.8 倍ちがう。 差を作っているのは客単価だけです。つまり韓国料理屋の開業判断は、「韓国料理をやるか」ではなく「いくらの客単価で、何人を集める店にするか」から始まります。

計算過程 — 客席で焼く型(20 席・客単価 3,500 円)

[前提]
  客単価      3,500 円
  原価率      35%  → 粗利率 65%  → 1 人あたり粗利 2,275 円
  席数        20
  月額家賃    31 万円
  人件費      31 万円(正社員 1 名 + アルバイト)
  支払利息     3 万円
  その他経費  45 万円(水道光熱費・消耗品・広告等)
  ────────────────────────
  固定費合計  110 万円 / 月

[赤字ライン]
  必要売上 = 110 万円 ÷ 0.65           = 約 169 万円 / 月
  必要客数 = 110 万円 ÷ 2,275 円        = 約 484 人 / 月
             484 人 ÷ 営業 26 日        = 1 日 約 19 人
             19 人 ÷ 20 席              = 約 0.9 回転

[月 30 万円の利益を出すライン]
  必要売上 = (110 + 30) 万円 ÷ 0.65    = 約 215 万円 / 月
  必要客数 = 215 万円 ÷ 3,500 円        = 約 615 人 / 月
             615 人 ÷ 26 日             = 1 日 約 24 人
             24 人 ÷ 20 席              = 約 1.2 回転

20 席で 1 日 19 人= 1 回転を切る水準で赤字を回避できます。 客単価が高い業態の強みはここにあり、席を埋め切らなくても成立します。逆に言えば、席数を増やしても客単価が上がらなければ、増えた家賃と人件費の分だけ必要客数が跳ね上がります

計算過程 — 厨房調理・テイクアウト型(客単価 1,200 円)

[前提]
  客単価      1,200 円(ランチ 900 円 / ディナー 1,500 円の平均)
  原価率      30%  → 粗利率 70%  → 1 人あたり粗利 840 円
  月額家賃    40 万円(15 坪・駅近)
  人件費      45 万円(アルバイト 2 名分、オーナー給与を除く)
  水道光熱費  10 万円
  広告宣伝費  10 万円(デリバリー手数料含む)
  消耗品費     5 万円
  その他経費   5 万円
  ────────────────────────
  固定費合計  115 万円 / 月

[赤字ライン(会計上)]
  必要売上 = 115 万円 ÷ 0.7            = 約 164 万円 / 月
  必要客数 = 115 万円 ÷ 840 円          = 約 1,369 人 / 月
             1,369 人 ÷ 営業 26 日      = 1 日 約 53 人

[借入返済まで賄うライン(資金繰り上)]
  固定費 + 返済 16 万円                 = 131 万円 / 月
  必要売上 = 131 万円 ÷ 0.7            = 約 187 万円 / 月
  必要客数 = 131 万円 ÷ 840 円          = 約 1,560 人 / 月
             1,560 人 ÷ 26 日           = 1 日 約 60 人

元金の返済は会計上の費用ではありませんが、現金は出ていきます。 「黒字なのに資金が減る」状態を避けるには、赤字ラインではなく返済込みのライン(この例では 1 日 60 人)を目標に置いてください。53 人と 60 人の差 7 人が、返済のために毎日必要な客数です。

自分の店の数字で計算する

上の 2 例は条件が違うだけで、式は同じです。自分の見込みを入れて計算してください。

1 日あたり必要客数 = (家賃 + 人件費 + 水道光熱費 + 借入返済 + その他固定費)
                     ÷ (客単価 × 粗利率)
                     ÷ 月間営業日数

家賃を 5 万円上げると、必要客数は「5 万円 ÷(客単価 × 粗利率)÷ 営業日数」だけ増えます。 客席で焼く型(1 人あたり粗利 2,275 円)なら 1 日あたり約 1 人、テイクアウト型(840 円)なら約 2 人です。同じ 5 万円の家賃差が、業態によって重さが変わります。物件を内見する前にこの換算を済ませておくと、家賃の判断が速くなります。

この数字の限界(そのまま自分の店に当てはめないでください)

数字は前提が変われば変わります。上の試算の前提と、外れやすい点を明示します。

  • 母集団は 2 件で、業態の平均ではありません。 REDISH が支援した個別の開業計画であり、統計値として扱えるサンプル数ではありません
  • 「客席で焼く型」の元データは焼肉業態の計画です。 韓国料理店そのものではなく、排煙・ロースター・肉の原価という設備と原価の構造が同じ業態を代理として使っています。サムギョプサル中心の店なら近い構造になりますが、一致は保証しません
  • いずれも計画値であり、決算の実績値ではありません。 開業前に立てた見込みです
  • 固定費に事業主自身の生活費を含んでいません。 オーナーの給与を月 30 万円取るなら、その分だけ必要客数が増えます(客席で焼く型で 1 日あたり約 5 人、テイクアウト型で約 14 人)
  • 営業日数を 26 日で計算しています。 週休 2 日(月 22 日)にすると 1 日あたり必要客数は約 2 割増えます
  • パンチャン(無料の副菜)の原価は原価率に含まれる前提です。 品数を増やすと原価率が上がり、粗利率が下がるため必要客数が増えます

まず決めるのは「焼肉をやるか」

同じ韓国料理でも、サムギョプサルやカルビを客席で焼く業態と、ビビンバ・チゲ・韓国式チキンのように厨房で調理して提供する業態では、必要な設備がまったく違います。

客席で焼く業態厨房調理中心の業態
排煙・ダクト各席へのダクト配管が必要厨房フードのみで足りる場合が多い
ロースター無煙ロースター(電気・ガス・炭)の選定が必要不要
物件条件ガス容量・排気経路・階数の制約を受けやすい制約が少なく居抜きを使いやすい
内装工事重くなりやすい相対的に軽い

客席で焼く業態を選ぶなら、物件を決める前に排気経路を確認してください。 ビルインの物件では、外壁面や屋上へダクトを通せず断念するケースがあります。契約後に判明すると、保証金と工事の手戻りが同時に発生します。

無煙ロースターは、電気式・ガス式・炭火式で必要な設備が変わります。炭火は火力と香りで差別化しやすい一方、消防と換気の要件が重くなり、炭の保管場所と廃棄動線も必要になります。開業時点の投資を抑えたい場合は電気式から始め、業態が固まってから入れ替える選択もあります。

許認可と届出は「期限」で管理する

韓国料理屋に固有の許可というものはなく、必要なのは一般の飲食店と同じ手続きです。ただしそれぞれ期限があり、逆算しないと開店日がずれます

手続き提出先期限の目安
飲食店営業許可(食品衛生法)保健所施設完成予定日の 10 日前ごろまでに申請
食品衛生責任者の設置店舗ごとに 1 名以上。講習受講で取得可能
防火管理者の選任届消防署収容人員 30 人以上の店舗で必要
防火対象物使用開始届消防署使用開始の 7 日前まで
深夜酒類提供飲食店営業開始届出警察署午前 0 時以降も酒類を提供する場合、営業開始の 10 日前まで
個人事業の開業・廃業等届出書税務署開業の日から 1 か月以内
所得税の青色申告承認申請書税務署開業の日から 2 か月以内

見落としやすいのは深夜酒類提供飲食店営業開始届出です。 韓国料理店は夜遅い時間帯の需要が大きく、結果的に午前 0 時を越えて営業することになりやすい業態です。届出をせずに 0 時以降も酒類を提供すると無届営業になります。「最初は 0 時までのつもりだった」という店が、営業してみて需要に気づき、慌てて届出をするというのはよくある流れです。営業時間の想定を楽観的に置かず、届出だけ先に済ませておくほうが安全です。

なお、飲食店営業許可は施設基準を満たしているかの検査を伴います。図面の段階で保健所に相談しておくと、シンクの数や手洗い設備の位置で手戻りが起きにくくなります。

生食メニューは法規制を先に確認する

韓国料理では、ユッケ・センマイ・レバ刺しといった生食メニューが看板になりえます。ただし日本ではこれらに明確な規制があり、「出せるもの」と「出せないもの」が法令で分かれています

  • 牛肉の生食(ユッケなど): 2011 年 10 月 1 日施行の生食用食肉の規格基準により、肉塊の表面から一定の深さを加熱殺菌するなどの処理が義務づけられています。処理は専用の設備・区画で行う必要があり、加工基準・成分規格・表示基準のすべてを満たさなければ提供できません
  • 牛レバーの生食: 2012 年 7 月 1 日から、生食用としての販売・提供が禁止されています
  • 豚肉・豚レバーの生食: 2015 年 6 月 12 日から、同様に禁止されています

つまり、レバ刺しは牛でも豚でも提供できません。ユッケは基準を満たせば提供できますが、そのための設備投資と衛生管理体制が必要です。加熱して提供する「ユッケ風」メニューへ設計し直すか、基準を満たす体制を作るかは、開業前に決めておくべき判断になります。

メニュー表の表記も同時に検討してください。生食を思わせる名称で加熱品を出すと、期待とのズレがそのままクレームと低評価につながります。

食材調達は「二重ルート」で組む

キムチ・コチュジャン・テンジャン・唐辛子粉・春雨(タンミョン)など、韓国料理は専用食材の比率が高い業態です。ここが原価と味の両方を左右します。

調達ルートは大きく 3 つあります。

  1. 韓国食材専門の卸: 品目が揃い、業務用サイズで単価が下がる。最低ロットと配送エリアの確認が必要
  2. 総合食材卸のエスニック枠: 既存の取引に乗せられるため発注を一本化できる。品揃えは専門卸に劣る
  3. 自家製: キムチやタレを自店で仕込む。差別化しやすいが仕込み工数と保存管理の負担が増える

専門卸 1 社だけに依存しない構成を勧めます。 為替と輸入状況で仕入価格が動く品目があり、単一ルートだと価格改定をそのまま被ります。主要品目だけでも第 2 の入手先を確保しておくと、値上げ交渉と欠品の両方に耐えられます。

自家製キムチは有力な差別化要素ですが、仕込みスペース・保存容器・温度管理が必要です。開業直後は既製品で回し、オペレーションが安定してから自家製に移行する順序が現実的です。

原価とメニュー設計

飲食店では、原価率(Food)と人件費率(Labor)の合計である FL 比率を 60% 前後に収めることが一つの目安とされます。韓国料理業態では、この内訳に固有の傾向が出ます。

  • 客席で焼く業態: 肉の原価率が高くなりやすい一方、ホールの調理負担が小さく人件費を抑えやすい
  • 厨房調理中心の業態: 原価は抑えやすいが、仕込みと調理の工数が人件費に乗る
  • 共通: ナムル・キムチなどの副菜(パンチャン)を無料で提供する構成にする場合、その原価を最初からメニュー設計に織り込む必要があります

パンチャンは満足度に直結しますが、無料である以上は売上に対応しません。「何品を、どの原価で、どれだけ出すか」を決めずに始めると、客単価が上がらないまま原価だけが膨らみます。品数を絞って質を上げるほうが、結果的に評価も原価も安定します。

ランチとディナーで原価率が大きく変わる業態でもあります。時間帯別に原価を分けて把握しておくと、「ランチは集客できているが利益が出ていない」という状態を早期に発見できます。

開業資金の考え方

韓国料理屋に固有の資金要件はありませんが、客席で焼く業態を選んだ場合は内装・設備の比重が上がります。ダクト工事とロースターは、居抜き物件でも前店舗の仕様が合わなければ入れ替えが発生します。

資金調達では、日本政策金融公庫の創業融資が第一候補になることが多い業態です。自己資金の割合、事業計画の具体性、経験年数が審査の論点になります。詳しくは 飲食開業の際に必要となる資金の集め方 を参照してください。

開業前の物件選びと融資の関係については 飲食店開業前に知っておきたい、融資と物件選びの基本 でも整理しています。

開業後の数字管理

開業して最初の 3 か月は、想定と実績のズレが最も大きく出る時期です。特に韓国料理業態では、パンチャンの原価・肉の歩留まり・仕込みロスが計画から外れやすい項目になります。

月次で最低限見ておきたいのは次の 3 つです。

  1. 原価率(時間帯別に分解する)
  2. 人件費率(仕込み時間を含めて把握する)
  3. 1 日あたりの損益分岐点客数(固定費 ÷ 1 人あたり粗利)

3 つ目は本記事の冒頭で計算したものです(客席で焼く型なら 1 日 19 人、テイクアウト型なら 53 人)。客数に翻訳しておくと、「今日は何人来れば赤字にならないか」が現場の言葉になります。 数字が経営者の頭の中だけにある状態では、店長やホールスタッフと共有できません。

記帳と月次の数字づくりを自分で抱えると、開業直後の最も忙しい時期に負荷が集中します。外部に任せる選択肢については 飲食店の税理士の探し方 にまとめています。

REDISH では飲食店向けの記帳代行と経営数値の可視化を提供しています(税務申告は飲食専門の提携税理士法人が担当します)。

実際の開業計画(数字の裏付け)

冒頭の試算は、以下の公開済みの開業支援事例から数字を取っています。前提の置き方や融資審査での説明のしかたまで含めて公開しているので、自分の計画を組むときの型として使えます。

REDISH の開業支援は融資成功率 90% 以上(詳細は 開業支援サービス)です。数字の作り方そのものを一緒に組み立てます。

よくある質問

韓国料理屋の開業に特別な資格は必要ですか?

不要です。必要なのは一般の飲食店と同じく、店舗ごとの食品衛生責任者 1 名以上と、収容人員 30 人以上の場合の防火管理者です。調理師免許は必須ではありません。

ユッケは提供できますか?

生食用食肉の規格基準(2011 年 10 月 1 日施行)を満たす加工・保存・表示を行えば提供できます。専用の設備と区画が必要になるため、開業前に保健所へ相談してください。

レバ刺しは出せますか?

出せません。牛レバーは 2012 年 7 月 1 日から、豚レバーは 2015 年 6 月 12 日から、生食用としての提供が禁止されています。

焼肉業態にすると物件の選択肢はどれくらい狭まりますか?

排気経路とガス容量の制約が加わるため、候補は明確に減ります。物件を内見する段階で、ダクトを外部へ通せるか、既存の排気設備が使えるかを必ず確認してください。

深夜まで営業する予定がない場合も届出は必要ですか?

午前 0 時以降に酒類を提供しないのであれば不要です。ただし営業してみて需要に気づき延長するケースが多い業態のため、可能性があるなら先に届出をしておくほうが安全です。

キムチは自家製にすべきですか?

差別化にはなりますが、仕込みスペースと保存管理の負担が増えます。開業直後は既製品で回し、オペレーションが安定してから移行する順序を勧めます。

開業前に相談しておくとよい先はどこですか?

保健所(施設基準)、消防署(防火・使用開始)、警察署(深夜酒類提供)の 3 つです。図面の段階で相談しておくと、工事の手戻りを防げます。