飲食店の開業資金の集め方|必要額の出し方と4つの調達手段の比較

飲食店の開業資金の集め方

「飲食店の開業には 1,000 万円必要」という数字をよく見かけますが、この金額をそのまま自分の計画に当てはめないでください。必要額は、物件の状態・規模・業態で大きく変わります。居抜きの小規模店と、スケルトンからの中規模店では倍以上の差が出ます。

やるべきことは、自分の店に必要な額を逆算することです。そのうえで調達手段を選びます。順に整理します。

必要額は 2 つに分けて計算する

開業資金は、性質の違う 2 つに分かれます。この 2 つを分けずに合計だけを見ると、必ず不足します。

設備資金(一度だけかかる)

項目内容
物件取得費保証金、礼金、仲介手数料、前家賃
内装工事費スケルトンか居抜きかで最も差が出る項目
厨房機器新規購入か、居抜きの造作譲渡か
什器・備品テーブル、椅子、食器、レジ、決済端末
開業前の広告費看板、チラシ、Web サイト

運転資金(毎月かかる)

項目内容
家賃売上がなくても発生する
人件費開店前の研修期間も含む
仕入開店直後は在庫を厚めに持つ必要がある
水道光熱費・通信費固定的に発生する
借入の返済融資を受けた場合

運転資金は最低 6 か月分を用意してください。 開店直後から計画どおりの売上が立つことはまずありません。認知が広がり、リピートが生まれるまでには時間がかかります。

資金がショートする典型は、設備資金に手元資金を使い切り、運転資金を残さないパターンです。 内装や厨房機器にこだわって予算を使い切り、開店 3 か月後に仕入代金が払えなくなる。この失敗が最も多く、そして最も避けやすい失敗です。

逆算の式

必要額 = 設備資金 + (月間の固定費 × 6 か月)

月間の固定費が 80 万円なら、運転資金だけで 480 万円。これに設備資金を足した額が、集めるべき金額です。

見積もりの精度を上げる

設備資金の見積もりは、内装業者から 2〜3 社取ってください。1 社だけでは、その金額が妥当かどうかを判断できません。

比較するときは総額だけでなく、何が含まれていて何が別途かを確認します。以下は見積もりから漏れやすく、後から追加で請求されやすい項目です。

  • 電気・ガスの容量変更にかかる工事
  • 給排水管の引き直し
  • 空調と換気ダクト
  • 消防設備(自動火災報知設備、誘導灯)
  • 廃棄物の処分費
  • 看板・サイン

「工事費一式」とだけ書かれた見積もりは、比較にも予算管理にも使えません。 項目ごとの内訳を出してもらってください。

また、スケルトン物件では解体後に想定外の状態が判明することがあります。見積もり額の 1 割程度を予備費として見込んでおくと、追加工事が発生しても計画が崩れません。

4 つの調達手段

1. 自己資金

貯蓄で開業する方法です。

  • 利点: 返済も利子もない。誰にも説明責任を負わない
  • 欠点: 足りなくなったときに次の手がない。融資は「開業前」のほうが受けやすく、経営が苦しくなってからでは条件が厳しくなります

自己資金で全額をまかなえる場合でも、融資と併用する選択肢を検討する価値があります。 手元に現金を残しておくことで、想定外の事態に対応できます。

なお、自己資金は融資審査でも見られます。自己資金の割合が高いほど審査は通りやすくなるため、全額を設備に使うのではなく、一部を融資と組み合わせるほうが合理的な場合があります。

2. 家族・友人から借りる

  • 利点: 審査がなく、条件も柔軟。金利がかからない場合もある
  • 欠点: 返済が滞ったときに人間関係が壊れます。事業の失敗が、そのまま私生活の損失になります

借りる場合は、金額・返済方法・期限を書面にしてください。 「出世払い」のような曖昧な合意が、後から最も大きなトラブルになります。贈与とみなされないためにも、書面と返済の実績は重要です。

3. 融資

飲食店の開業では、日本政策金融公庫の創業融資が第一候補になることが多い手段です。

  • 利点: 事業計画を作る過程で、計画の甘さを事前に潰せます。第三者に説明できない計画は、そもそも実行できません
  • 欠点: 利子がかかる。返済が固定費として毎月出ていく

審査では主に次が見られます。

  1. 自己資金の額と、その形成過程(毎月コツコツ貯めた履歴は評価されます)
  2. 事業計画の具体性(売上の根拠、原価率、想定客数)
  3. 経験(同業での勤務経験があるか)

「事業計画を作らされる」ことを負担と考えないでください。 損益分岐点を計算し、1 日に何人来れば黒字かを出す作業は、融資を受けるためではなく経営のために必要です。融資審査は、それを外部の目でチェックしてもらう機会になります。

4. オーナーから出資を受ける

飲食店で勤務していた人が、出資者を得て開業するケースです。

  • 利点: 返済義務のない資金を得られる。開業時の資金不足が起きにくい
  • 欠点: 利益の配分が続きます。店が成功しても、その果実の一部は出資者のものです

出資条件は、初期の設計で出資者に有利になっていることが多くあります。 利益配分の割合、経営への関与、将来の買い取り条件を、契約前に確認してください。長く続く関係になるため、条件の妥当性を第三者に見てもらう価値があります。

どれを選ぶか

4 つを、失敗したときに何を失うかで並べると判断しやすくなります。

手段失敗したときに失うもの向いている場合
自己資金貯蓄小規模で、必要額が確実に見えている
家族・友人貯蓄 + 人間関係書面で条件を固められる場合のみ
融資返済義務が残る多くのケースで第一候補
出資利益の一部が継続的に資金以外の支援(経験・人脈)も得られる場合

運転資金 6 か月分を確保できることが最優先です。 その条件を満たせる組み合わせを選んでください。自己資金だけで足りないなら、融資と組み合わせるのが標準的な形になります。

補助金・助成金の位置づけ

融資とは別に、補助金や助成金を検討する方も多くいます。ただし開業資金の計画に組み込むときは注意が必要です

  • 後払いが原則: 多くの補助金は、対象の経費を支出したあとに交付されます。支払いのタイミングでは自己資金か融資が必要です
  • 採択が保証されない: 公募制のものは審査があり、必ず受けられるとは限りません
  • 対象経費が限定される: 設備の一部だけが対象で、家賃や仕入は対象外というケースが一般的です

「補助金が出る前提」で資金計画を立てると、採択されなかった場合と、入金までの期間の両方で資金が回らなくなります。 補助金は、あくまで受けられたら投資に回せる上振れ要素として扱ってください。

創業に関する制度は自治体ごとにも用意されています。開業予定地の市区町村の産業振興窓口に一度問い合わせておくと、使える制度が見つかることがあります。

資金調達の前にやること

調達手段を検討する前に、次の 3 つを済ませてください。

  1. 設備資金の見積もりを、内装業者から複数取る
  2. 月間の固定費を積み上げる(家賃・人件費・水道光熱費・返済)
  3. 損益分岐点を客数に翻訳する(固定費 ÷ 1 人あたり粗利)

3 つ目が重要です。「1 日に何人来れば黒字か」を答えられない状態では、いくら借りるべきかも決められません。

たとえば月間の固定費が 80 万円、客単価 3,000 円、原価率 30% なら、1 人あたりの粗利は 2,100 円です。固定費を賄うには月に約 381 人、25 日営業なら 1 日あたり約 16 人が必要という計算になります。この数字が席数と立地から見て現実的かどうかが、計画の妥当性を判断する起点になります。

現実的でないと分かった時点で、直すべきは資金計画ではなく事業計画です。 借入額を増やしても、1 日 16 人が来ない立地では返済が苦しくなるだけです。客単価を上げる、席数を見直す、家賃の低い物件に変えるといった打ち手を、資金を集める前に検討してください。

REDISH では飲食店向けの記帳代行と月次の数値可視化を提供しています(税務申告は飲食専門の提携税理士法人が担当します)。開業後は、計画と実績のズレを月次で把握できる状態にしておくことが、次の資金判断の土台になります。

物件選びと融資の関係は 飲食店開業前に知っておきたい、融資と物件選びの基本、開業までの流れは 飲食店開業までのスケジュール を参照してください。

よくある質問

開業資金はいくら必要ですか?

物件の状態と規模によって大きく変わります。「設備資金 + 月間固定費 × 6 か月」で逆算してください。一般的な相場をそのまま使うと、過不足のどちらも起きます。

運転資金はどれくらい用意すべきですか?

最低 6 か月分です。開店直後から計画どおりの売上が立つことはまずありません。

自己資金はいくら必要ですか?

融資審査では自己資金の額と、それをどう貯めたかの過程が見られます。毎月積み立てた履歴は評価されます。

融資はどこに相談すればよいですか?

飲食店の創業では日本政策金融公庫が第一候補になることが多くあります。物件を契約する前に相談を始めてください。

融資の相談はいつ始めますか?

物件契約の前です。物件を押さえてから融資が下りないと、保証金を失います。

家族から借りる場合の注意点は?

金額・返済方法・期限を書面にしてください。曖昧な合意が後のトラブルになります。贈与とみなされないためにも書面は必要です。

出資を受けるときに確認することは?

利益配分の割合、経営への関与の範囲、将来の買い取り条件です。長く続く関係になるため、契約前に第三者の目で確認する価値があります。